2007年08月18日
(9)博士の愛した数式 小川洋子(2003)
「僕の記憶は80分しかもたない」
博士の記憶はきっかり1時間20分しかもたず、記憶は事故の前まで。博士の記憶がもたないことを幹に、数字への愛情やこどもへの愛情が枝葉になって、読み飽きずによめました。博士の数字ひとつ、ひとつの解説は数字の興味を拡げてくれるし、途中途中の博士の野球・阪神・江夏好きに記憶が確かにとまっていることと、博士の数字以外での人間性が描かれていて引き込まれる。博士のために、家政婦とその息子の√(ルート)が江夏のカードを苦労して探す場面などは気持ちがやわらかくなる。片親の√と無条件で子供を愛する博士の関係、特に博士の記憶障害を気遣い、母親に腹を立てる√の姿は、「博士は明日になれば忘れて元通り」という浅はかさを正し、母親の博士との向き合い方をピリリと引き締め、子供の純粋さと、博士への√の向き合い方が表現されている。気づけば博士のファンになっている自分に気づきました。
Posted by 永卯称瓶 at 23:00│Comments(0)
│小説 長編